第2章 「ペッパー」
第25話 「煙草の引力」
その日は7時30分に目が覚めた。
ゆっくりと身支度を済ませ8時すぎにロビーに降りたがペッパーはまだ来ていない。
とりあえず
今日発つ事になっているオークランド行きの電車と
パーネルYHの予約を済ませペッパーを待つことにした。
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それから 約束の時間は随分と過ぎる
11時をまわってもペッパーは現れない。
時は1994年 まだ世の中に「携帯電話」が普及するずっと前だ。
「待ち合わせ」の「すれ違い」が日常的に氾濫している時代だ。
(まあ 携帯があったとしても会話が成立しての話だけど)
だからこそ 「すれ違い」を防ぐ為にもロビーのソファーで待つしかなかった。
ペッパーは昨日別れる時に
「明日は7時30分にロビーに降りてくる」と確かに僕に言った。
30分ほど遅れたが僕は午前8時にはロビーに降りてきている
ということは
ペッパーはこの30分の間に出発してしまったのだろうか?
時計は12時をまわる
「別れなんて こんなものか・・」
と 寂しく思うがこれも全て
未熟な英語力による意思疎通のズレからきた産物ではないかと
無理矢理飲み込んだ。
「最後の挨拶は、きちんとしたかったな〜」
としみじみ・・
ベランダに出て
なかなか「止められない煙草」を吸う。
確か ペッパーとの出会いは
タウポYHのベランダで僕が煙草を吸っていた時だったような・・・
確か彼女も「止められない煙草」を吸いにベランダに現れ
なんだか 意気投合して現在に至ると・・・
そのような出会いの風景を思い出す。
「煙草の持つ不純な引力が彼女を引き寄せた」
確かに根拠は全くないが
この事は紛れもない事実だ!!
非論理的だし 立証する事はできないが
このような偶然は「そう あるものではない」
何度目だろうか このような偶然は
煙草を吸うと彼女が現れるというジンクスを信じたわけではないが
現実に煙草を吸っている僕の前に
寝坊して 申し訳なさそうなペッパーが立っていた。
時計を見ると午後1時
「まったく なめている」 ←(日記引用)
続く・・・